
やっちまった。
殺ってしまった・・・・・・。
何の考えもなく、つい軽いノリで当ブログの主役を殺してしまった。(
前回記事参照)
これはこれで、ブログをやめるいい機会とも思ったけれど、さすがにこの終わり方はあんまりだ。
けれど、取り返しのつかないことをしてしまった飼い主にはどうしようもないので、続きはハルさんの独白にまかせてみようかと思う。
もちろん、これは飼い主の想像で描いた世界だけれど、ハルさんと一つ屋根の下で暮らすようになってはや3年。
その間、ハルさんの生態をつぶさに観察してきた者として、限りなく真実に近い内容となったのではないかと、飼い主は自負している。
それでは、ハルさん、どうぞ。
****************************************
満面の笑みをたたえる顔が眼前にせまっていた。
「アンタさえ・・・アンタさえいなければっ!!」
悲壮な言葉とは裏腹に、飼い主♀の表情は晴れやかで、私の首を締め上げる手には力が入っていない。

時は皐月。
飼い主たちが私を連れてきたのは京都だった。
何でも世間は大型連休らしく、近所の友人たちは様々な行楽地へ連れていってもらったと
定例集会で自慢気に話していた。
なのに私は留守番ばかり。
一度、ドッグランへ連れて行ってもらったことがあったけれど、飼い主がぐずぐずしていたおかげで閉門時間を過ぎており、中に入れなかった。

あの時ばかりは、ドジでノロマな飼い主たちを呪った。
帰りの車中では、飼い主たちに異を唱えるためにハンガーストライキの実行を決意したほどだった。
だって、私があの恐ろしい飼い主に対抗できる手段はそれしかないから。
ああ、でもダメだった。
帰宅して晩ゴハンを目の前にした瞬間、全ての理性は宇宙の彼方に吹き飛んだ。
私がようやく正気を取り戻したのは、空っぽのボウルを舐めていたときだった。
ゴハン、ゴハン、ゴハン♪
イッツ、マイラヴ♪―――ああ、何だかお腹が空いてきた。
しばらくの間、いつものように私をおもちゃにして遊んだあと(今回はサスペンスごっこだったらしい)、ようやく私は地面に降ろされる。
何とか飼い主の魔手から逃れようともがいていたのだけれど、私の足は飼い主の体にかすりもしなかった。
足は四本もあるのに、何だか悔しい。
その後も、「ここらに置くと面白いかも!」と

置物のように扱われて写真を撮られたりと、私は弄ばれるばかりだ。
家を出る前には、「今日はハルの日やからな〜」と言っていたはずなのに、この体たらくだ。
本当に人間は信用できない。
信用できないといえば、今朝家を出発するときのアクシデントもそうだ。
あれこそ人災だ。
私には何の説明もなかったけれど、車の室内灯が点いていたためにバッテリーが上がり、エンジンがかからなかったことくらい、犬の私にだって分かる。
20分ほど後にやって来た「JAF」という組織が一体何者なのか分からないけれど、おかげで車のエンジンは起動した。
でも、「JAF」が「ジャパン・オートモービル・フェデレーション」の略であることくらい犬の私にだって分かる。
いずれにせよ、JAFを待っている間、マンション前に放たれた私は、ひたすら走ることにした。
後から思えば、人通りの多い古都の町をゆっくり歩こうとした飼い主たちが、私を疲れさせようと意図的にしかけたのではないだろうか。

けれど、私は走らずにいられない。
目の前にゴハンがあれば迷わず食べるように、飼い主が遠く離れていくと走らずにおられないのだ。
ああ、でもゴハンのほうが好きかな。
ゴハン、ゴハン、ゴハン♪
イッツ、マイダーリン♪―――ああ、何だかとってもお腹が空いてきた。
物思いにふけっている間も、私は飼い主たちに連れられて水路の上をしばらく歩き、

南禅寺を後にした。

そして再び哲学の道へと戻る。
飼い主たちは哲学の道沿いにあるというカフェを目指しているようだった。
ところが。
一向にカフェが現れない。
あのカーブを曲がれば。
次の辻を越えれば。
飼い主たちは祈りを込めるような眼差しで周囲を見渡すが、私も一緒に入れるようなお店は見当たらなかった。
だいたい、飼い主たちが持っているのは、無人島に隠された宝のありかを印したような、そんなアバウトな地図なのだ。
そんな地図で正確な店の場所など分かるわけがない。
そのうち、
「ハル!この辺りにあるはずのイタリアンカフェを見つけてきて!
にんにくとオリーブの匂いがしているはず!・・・・・・って、ハルは鼻が利かんから無理か!!」
と、犬である私に向かって、たいそう失礼なことを言い放ってきたが、まあそれは事実だから反論のしようがない。
そうこうするうちに、ようやく飼い主は、お目当てのカフェ「cafe Terrazza」に辿り着いたようだった。

疲労困憊の様子でぐったりと椅子に腰掛ける飼い主たち。
私も朝から走らされたうえ、長時間の散歩でさすがに疲れが出てきたので床にへたり込む。
飼い主たちは何か飲み物を注文したようだったが、こういうとき私は何も貰えないので、床で腹ばいのままだ。

コンクリートの床がヒンヤリと心地よい。
しばらく横たわっていると、店員さんが何かをテーブルに持ってきた。
思わず鼻をクンクンしてみたけれど、それが何かは分からない。
そういえば、私、鼻がつまっていたんだっけ。
けれど、私の第六感はソレが尋常ならざるモノだと告げていた。
何だか首筋がサワサワする。

案の定、それはやはり、私用のオヤツだった。
サンクス店員さん!
ビバ第六感!!

飼い主たちが「ええっ?こんなにたくさん!?」と言っているところをみると、オヤツの量はハンパないみたいだ。
ところが、私が飼い主からもらったのは、わずかに3、4本のジャーキーだけだった。
それも、ゴロンを命じたり、鼻っ面にオヤツを乗せてきたりと、何やかんやと指図してくる。
誇り高いコギ族として、こんな屈辱は耐えがたい。
でもいい。
オヤツがもらえるなら。
もう、私、何だっていい!

けれど、これがゴハンならもっといいのに。
ゴハン、ゴハン、ゴハン♪
ゴハン、イッツマイガー♪―――ああ、もう耐え難いくらいお腹が空いてきた。
こうして、飼い主たちがカフェで体を休めたあと、私は京都御苑というところに連れて行かれた。

京都御苑は恐ろしいほど広く、たくさんの犬たちが散歩している。
私と同じコギ族にも出会った。
親子だというそのコギ族は、私がびっくりするほど穏やかだった。

特に、子供のコギは私が近づくと「さ、匂って、匂って」とばかりに体をしならせる。

なかなかやるじゃないか。
私も「崩れ女豹」で対抗し、タカラワンヌの心意気を見せつけたけれど、果たして京都の同族に伝わっただろうか。

今後、御苑で流行ってくれると、私も遠出してきた甲斐があるというものだ。
その後、私はようやくロングリードの装着を許され、御苑の中を走り回った。

飼い主たちは
「おー。ハルがいい顔してる」
と暢気にのたまわっているが、それも当然。

ようやく、やっとのことで、一日の終わりに私の時間がやってきたのだ。
イッツ、マイタイム。
ああ、けれど。
運動をするとお腹がすいてきた。
ゴハンが、ゴハンが欲しい。
ゴハン、ゴハン、ゴハン♪
ゴハン、イッツマイネーム♪―――ああ、お腹が背中にくっつきそうなくらいお腹が空いてきた。
こうして、私の京都小旅行は終了した。
・・・・・・と飼い主は思っているだろう。
けれど私は知っている。
「SWAT」が「スペシャル・ウェポンズ・アンド・タクティクス」の略だと知っているのと同様に、知っているのだ。
御苑を出たあと、飼い主が私を車に置いて、いいもの食っていたことを。

さらに知っている。
そこがテラス席犬OKの店であることを把握していながら、夜風に吹かれることを嫌って、私を車中に置いていったことを。
さらには、こんなことまで知っている。
実はその店、店内も犬OKだったことに入店してから気がついたことを。

でも、私は車の中で留守番だった。
「ハルも今日疲れてるやろうから、ゆっくり休んどきやー」
と飼い主は暢気にのたまわっていたが、私だってゴハンが食べたかった。
ジューシーではないし、ホカホカで暖かくもない。
ただただカリカリしているけれど、私はゴハンが食べたいのだ。
嗚呼。
ゴハン、ゴハン、ゴハン♪
ゴハン、イッツマイライフ♪
ゴハン、ゴハン、ゴハン♪
ゴハン、ギヴミーゴハン♪
プリーズ、ギヴミー!****************************************
マイペースな飼い主に付き合わされて、ハルさんにとっては大変な一日でしたが、たくさん走ることが出来て楽しかったはず(と思いたい)。
また飼い主と一緒にお出かけできるよう、こちらに応援
クリックをお願いします。

そしてハルさんの飽くなき食欲にお手上げの
クリックお願いします。