衝撃のヨーグルト事件、
驚愕のケータイ事件を経て、昨今、私達のハルさんに対する評価はうなぎのぼりである。
かつては、やれ鼻が利かない、やれ鈍くさいと犬失格の烙印を押され、もう一度仔犬からやり直してこい、と散々こき下ろされてきたハルさんであったが、ここにきて見事な転身をみせている。
いまやハル株は急上昇。
まさに「買い」の時期なのだ。
そんな折、妻Mが、さらにハル株を吊り上げるようなことを言い出した。
「なあなあ」
「ん?」
「ハルちゃん、最近フィラリアの薬を食べなくなってん」
「え? ええーっ!!」
何をそんなに驚くことがあろうかと思われるかもしれないが、飼い主が与えてくれるものは例外なく食べ物に違いないと信じ込んでいる(ように見える)ハルさんは、フィラリアの薬でさえ、オヤツと間違えて食べるのである。
フィラリアの薬といえば、おおまかに2種類あって、犬が抵抗なく口にできるジャーキータイプと、いかにも薬らしい外見をしている錠剤タイプに分かれる。
ハルさんが愛飲(?)しているのは、このうち錠剤タイプだ。

人間より優れた感覚を持つといわれる犬たちである。
異物である薬をすんなりと口にするのは難しいらしく、だからこそ、珍しいジャーキータイプがわざわざ売られているのだろう。
しかし、犬としての能力を母犬の体内に置き忘れてきたと噂されるハルさんは、何の不信感も抱かず、飼い主が差し出す錠剤をパクリと丸呑みにしてきた。
過去に記事にしたように、飼い主が放り投げる錠剤をキャッチするのみならず、手のひらに置いた錠剤を指差して「ヨシ!」と言うだけで、パクッと食いついていたのである。
ところが、そんな能天気ハルさんに変化が現れ始めたのだと妻Mが言う。

「正確に言うと、ヨシ!って言うと口にはするんやけど、その後ペロッと吐き出すねん」
「吐き出す・・・。あのハルちゃんが?」
「そう。あのハルちゃんが」
「ええーっ、マジで!?」
「しかも、吐き出した後、私のほうをじっと見るねん。
『ちょっとMさん、これはオヤツと違うのと違いますか』みたいな目で見てくるねん。
仕方がないから、薬をチーズで包んであげたらやっと食べたわー」
「それって・・・、普通の犬みたいやんか」
「そう。最近のハルちゃん、何か犬っぽいねん」
あのハルさんが、一度口にしたものを自ら吐き出すとは・・・・・・。
ハルさんときたら、齢3歳にして、今更ながら(本当に今更だ)犬としての階段を昇り始めたのかもしれない。

いったい何のために、犬としての己を磨こうと思ったのか、口を利けるものなら聞いてみたいものである。
けれど、ハルさんは犬であるし、犬としての能力を開花させることは悪いことではない、と思う。
やがて、月に一度のフィラリアの薬を与える時期がやってきた。
どれどれ、ハルさんの犬らしさを見せてもらおうではないか。
フィラリアの薬を片手にハルさんを呼び寄せる。
すると満面の
笑顔 ヨダレとともにハルさんがやってきた。

手ずから与えると吐き出したと妻Mが言っていたので、1・2・3の掛け声とともに錠剤を宙に放り投げてみることにする。
少しハードルを下げてみたわけだけれど、犬としての己を磨きつつあるハルさんのことだ、たとえパクリと口にしても、直ちに食べ物ではないことに気がついて吐き出すことだろう。
そんな期待感を込めてフィラリアの薬を放り投げる。
狙いあやまたず、薬は放物線を描いてハルさんの大きな口内に収まった。

とりあえず、ここまでは想定どおりである。
さて、後はペロリと薬を吐き出せば、ハルさんはまた犬としての高みにたどり着けるはず・・・。
そんな飼い主の期待に満ちた眼差しに見つめられたハルさんは、微かに微笑みながら、ゴクリと喉を鳴らした。
え?
思わぬ出来事に立ち尽くす飼い主。
一方のハルさんはというと、「さあ、さあ、次のオヤツを!」とでも言わんばかりの満面の
笑顔 ヨダレを振りまいていた。

少々がっかりしながら、それでも飼い主はハルさんに追加のオヤツを放り投げた。
正しく言うと、これがこの日最初のオヤツだったわけだが、ハルさんにとっては2度目のオヤツだったのかもしれない。
ハルさん・・・・・・。
それでいいのか(犬として)。
これは、それまで急上昇中だったハル株が初めて上げ止まった瞬間であった。
そして、今から思い起こすと、この出来事がハル株大暴落の兆しだったように思えて仕方がない。
ハルさんの転落ストーリーは、ここから始まった。
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犬としての階段を上っているように見えたハルさんですが、それは錯覚だったようです。
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