金曜日(非生産イベント当日)、夫は携帯電話を忘れていった。
家を出るときに気づいたが、同じ職場の人のお宅に行くわけだからたいして困らないだろうと放っておいた。
しかしこれが後の自分に無駄な不幸を呼ぶことになる。
で、W杯が開幕。
私の開幕戦はドイツ0−0コスタリカで終了しました(←見ろよ)。
次の日。
早々と寝てしまったせいで、朝気持ちよく目覚めた私は夫のいない自由を満喫していた。
パソコンもテレビもオーディオも使い放題。贅沢気分そのままで、さらに洗濯と掃除などしてみる(←庶民)。
ダスキンフロアモップをおいてハルさんをひとなでし、ゴキゲンでパソコンのキーボードを触ろうとしたその時。
キーボードの横に黒い物体が。
ムカデであった。
人生において3度目の室内遭遇である。
1度目と2度目は、前に住んでいた社宅での出来事だった。
うそみたいに家賃が安かったが、畳をめくるとなぜか地面が見えるようなつくりの建物だったので、部屋のなかを虫たちがわがもの顔に闊歩していた。
アリンコ、ダンゴムシ、ムカデ……、社宅での日々はそのまま虫との戦いの歴史であった。
ちなみに私は昆虫類がそれはもうキライだ。とくに固くて黒くて艶めいたやつには、なんというか生物として負けている気がする。
何度か戦いにやぶれ、自分がどうしてもナウシカになれないことを悟った私は、このマンションへ引っ越して、本当に心安らかに暮らしていたのだ。
それなのに。
とにかくまずハルさんを確保し、無理矢理ケージに押し込む。
とにかく夫が帰ってくるまで、ソレを見失わないことが大切だ。万一見失ったら、ほんとうに家出しなければならなくなる。
みつめあうこと15分。夫はまだ帰ってこない。
しかしこの緊張感にもあまり耐えられそうにない。ここは攻めに転じたほうがいいのではないか。
必死で過去2回の遭遇場面の記憶を探る。
[1回目]
居間に出現したソレに、夫、あろうことか丸めた新聞紙で立ち向かう。
ソレは部屋中を逃げ惑い、死ぬほどはたかれ、ようやく力尽きる。
一度、新聞紙にひっかかってソレが宙を舞ったときは本当に生きた心地がしなかった。
[2回目]
ふたたび居間に出現。ムカデとしてあるまじき大きさ(30センチ長)にすでに勝負を挑む気になれず。
勤務中の夫にスクランブルをかけて呼び戻し、ハサミで切ってもらう。
……つまり、打撃は効かない。有効なのは斬撃のみ。
そんなわけでハサミを持ってくる。
文明にひれ伏すがいい!ふははは!と威勢よく刃先を突き出したかったが、気負いとは裏腹の弱気な刃先に触れたソレは、ものすごい速さでカウンターの向こうに消えた。
……見失った。
さようなら夫。今までありがとう。私、実家に帰ります。ハルさんを連れて。
一瞬、気持ちが実家へ逃避したが、とりあえず思い直してソレを探す。前の社宅と違って密閉性の高いマンションだ。そうそう逃げる場所もないだろう。
おそるおそるハサミであちこちをつついていると、洗って伏せてあるハルさんの食器の下から黒い物体が出てきた。
しかしハサミ大作戦はあまりにも身分不相応であるということは、さっきいやほど思い知らされている。
前の社宅では常備していたムカデキンチョールもここにはない。
再びソレとみつめあう。夫はまだ帰ってこない。
公衆電話から帰るコールをしてくれてから、かれこれ2時間が経過している。携帯電話はダイニングテーブルの上にある。スクランブルはかけられない。
意味もなく自分の携帯と夫の携帯をにぎりしめてウロウロする私。
そして、私はあるところへ電話をかけた。
「あの……」
「? だれ?」
「Yの……嫁です……」
「おー、こんちわ!どうしたん?」
「こんにちわ。あの、うちのダンナさん……もう帰りましたよね?」
「うん、だいぶ前に帰ったで」
「誰か、(携帯持った人と)一緒に帰ってないですか?」
「え?ひとりで帰ったと思うけど」
「あの、そちらのおうちからウチまで、どのくらい時間かかると思います?」
「んー、1時間半くらいちゃう?なに、あいつまだ帰ってへんの?」
私は夫が遊びに行った先輩の家に電話したのだ。
これでは浮気を疑うストーカー妻みたいだ。
「きっとな、あいつゲーム買いに行ったんやで!あまりの悔しさに!あははは!」
電話の向こうで楽しそうな笑い声が聞こえる。きっとまだ残っている人がいるのだろう。
ああ、私もそちらの世界へ行きたい。
「大丈夫やって、心配せんでもそのうち帰ってくるよ」
「や、心配してるわけではないんですけど……」
「えー?じゃあどうしたん?」
「む、むむムカデが出てですね……」
混乱と焦りでどもる私。
「ムカデ!おー、ウチも出たことあるで!あれはハサミやな!ハサミ!」
「無理です」
「ハサミが一番ええねんで?」
「できません」
「んー、じゃあハイターぶっかけるんやな」
「ハイター?漂白剤ですか??」
「そうそう。ムカデは死ぬし、あとから拭いたら家の中もきれいになるってもんや!」
「……それは……即死ですか?」
暗いわりに、強い剣幕の私の声にたじろく先輩。
「えっ……そ、そーそー即死即死!」
「即死なんですね」
「う、うん。だってほら人間だってハイターで死ぬんやから」
「抗わないならいいんです。がんばってみます」
「そ、そう……、じゃ、がんばってな!」
「はい。ありがとうございます」
「あ!ちょ、ちょっと!」
「はい?」
「ムカデな、ちょっとだけ暴れるかもしれんわ」
最後のひとことに先輩の人柄を感じたが、とりあえず今はそんなことはどうでもよろしい。
家中の漂白剤を集めてきて、しばし考える。
・キッチンハイター(液体)
・ハイター(粉)
・カビキラー(泡)
泡のカビキラーが一番確実に仕留められる気がするが、できればキッチンでカビキラーを撒き散らしたくない。後々のことも考えるとキッチンハイターが無難だろう。
そんなわけでキッチンハイターを軽量カップにかっきり100cc入れ、構える。
ジョバ〜
ソレはキッチンハイターに押し流され、流しの手前で止まった。よくわからないが苦しそうだ。体がエビゾリになっている。しかし一向に動きを止める気配がない。いつまでもどこかでなにかが動いている。
焦った私はさらにキッチンハイターを注ぎ込む。
……半分以上入っていたはずのキッチンハイターがなくなった。それでもヤツはまだぴくぴく動いている。
もう後のことなんて気にしていられない。ハイターの粉をぶっ掛ける。
ようやくほとんど動かなくなったものの、まだ完全に動きが止まったわけではない。
トドメ、何かトドメをささなくては。
そんなわけで再びハサミを持つ。今ならなんとか切り刻めそうだ。
しかし、やっぱりできないことはできないもので、3箇所に切り込みを入れたところで力尽きる。
もうだめだ。もうこれ以上私にできることはない。
ハイターの粉がついたハサミを握って呆然と立ち尽くしているところへピンポーンと能天気な音がして、ようやく夫が帰ってきた。
あまりの緊張と疲労で、その後しばらく記憶がない。
気がつくと、切り刻まれたムカデの残骸がゴミ袋に放り込まれていた。
折角、虫達の襲来から逃げ延びたと思っていたのに、どうしてこんな目にあわなくてはならないのだろう?
これは、宿命?それとも業?
様々な想いがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
自然と涙が込み上げてきた。

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結局ハルさんは一度も登場しませんでしたが、Mの頑張りに胸を打たれた人はパチパチとクリックをお願いします(Y)。

いつも楽しく読ませて頂いています。
こんな大事件が起きているとも知らず
公園ではるさんに能天気に声をかけていました。
ムカデ必ずツガイだと聞いたことがあるのですが
相方は大丈夫でしょうか?
一度あいあいパークでお会いした、動かないダックス「テン」と暴走ダックス「ニコ」の飼い主です。
この度はムカデ騒動、大変でしたね。
ムカデは一度遭遇すると、些細な物音にも過敏に反応してしまいますよね。
そう、それはノイローゼのように・・・私も経験あります。
ムカデ退治には熱湯が効くらしいですよ!
偶然お邪魔してから、文章の楽しさと、ハルさんの可愛さに、いつも覗かせてもらってるものです。
Mさま、ムカデ退治お疲れ様です(><。)
私も、一度退治に大変な思いしまして、ほんとに
よくわかります!
しかも、一人の時なんて、泣きます(><)
黒いのも大嫌いです。
それでは、また覗き(読み逃げでしょうか?)にお邪魔させてくださいませ。
妻も虫嫌いなのでよく出撃させられます。
特に嫌いなのがバッタと蝶々、、
何処が怖いのか分かりませんがとにかく怖いらしいです。
あ〜、あとゴキには特に敏感ですね。これは主婦の性かもしれませんが…
蚊、小バエには見事な反応で撃墜王の名を欲しいままにしているんですけどね。不思議です(笑)
Mさんの死闘に拍手!!よく頑張ったわ〜。
うちにも出ます。ムカデとGとサイコガンダムが、私の中の3大黒いモノです。
そうそう、打撃は効かないのよね〜。斬撃の他に踏みにじるのも効くけど、私は出来ません…。
ところで↑でたっくるの母さんが恐ろしいことを仰ってるけど、マジ?
Yさんにご来訪いただいたので、私もお伺いさせていただきました〜、って、ええ! Mさん大変でしたね!!! うちも田舎なのでよく出没しますが、男の私でもムカデだけは苦手です・・・。だって、危害を加えるもんね、あいつらは。 寝てるところに枕元に居たり、刺されまくってます。
しかし撃退法にもいろいろあるんですね!非常に興味深かったです。ハサミなんて思いつきもしなかったです。ハイターは壁にへばりついてる時には難しそうですね。
家は昔から『コンロで焼く!』です(汗)ラジオペンチでつまんでコンロでチリチリっと焼きを入れそのままポイ! 簡単です。ラジオペンチは各部屋に置いてるくらいの出没率をほこる我が家です(爆)
実家の風呂場で頭を洗っていたら上から降って来ました。笑。
この時の恐ろしさと言ったら・・・。人間ホントに驚いた時には声が出ないんだなと悟った瞬間でした。爆。
風呂場から出してはいけないと思い密室でゴキ用の殺虫剤をスッポンポンで振りまき何とかヤツを絶命させましたが、危うく私の方が先に絶命しそうでした(;´Д`)
教訓:密室での殺虫剤はとっても危険。
ムカデ大変でしたね〜。(しかし、画像を撮る心の余裕がステキ☆)
うちはまだ室内での遭遇例はないのですが、廊下でよく見ますよ〜。イヤですね…。って言うか、明日は我が身ですね(^^;)気を引き締めて暮らします。
実家は川の近くなので、ムカデよく出ます!
一度、2階の自室にいた時に階下からダン!ダン!という物騒な音が。。。
階段から覗くと、母が廊下で包丁を振り回し、ムカデをぶった切っておりました。
私「何してるの?!」
母「ムカデが出たから切ってるのよ!」(本当はひどい山口弁ですが、共通語に翻訳)
私「その包丁、どうするの?捨てるよね?」
母「洗えば大丈夫よぉ〜」
…未だに、実家で帰った際はムカデ包丁で調理したゴハンを食べております(--;)
こんな母に育てられた私ですが、これからもよろしくお願い致します。。。
それにしてもW杯が開幕してから、いろんな意味でもうクタクタです。
昨日のオランダ×セルビア・モンテネグロ戦は気持ちよく観戦した(←事実上の開幕戦)というのに。
■■ たっくるの母さん
……知ってます(涙)。
2回目の遭遇時に結構MKDについて調べました。サイズ的にも今回は1回目サイズ(妻MKD)だったので次はきっと夫MKD……いやああぁぁぁ。
■■ テンニコままさん
熱湯ですか……。
それは、即死ですか?(←まだ言う)
でも熱湯ならエンドレスで生成できるわけだから、持久戦になってもイケそうですね!
■■ かりんさん
はじめまして〜。
コメントありがとうございます。
この手の不幸ってなぜか一人のときに限って襲われるんですよね。
泣いたっていいんですよ、人間だもの。
■■ 福夫さん
私の友人にも蝶がそれはもうキライなコがいます。彼女に言わせると「粉が散るのが耐えられない」んだそうです。
でも福さん、反射神経が良いんですね。いいなぁ……。
■■ かおりんさん
ありがとうございます!
かおりんさんに誉めてもらえるなんて、がんばったかいがあったというもんです。
たっくる母さんのいってること、大マジです。
あぁ、ハルさんの主食がMKDだったらよかったのに(←暴言)。
■■ まーく40さん
はじめまして〜。
コメントありがとうございます。
ケツ毛、拝見させていただきましたよ(ニヤリ)。
ペンチで掴むって結構な反射神経だと思いますよ!MKDをはっしとつかむまーく40さん……素敵です(うっとり)。
■■ 福さん
福さんの今回のコメント、いろんな意味でドキドキしながら読ませてもらいました。
私も次にお風呂に入るときは必ず上をチェックします!それにしても降ってくるなんて……無理だ……。
■■ チーム江崎総長さん
写真を撮ったのもキッチンハイターをかっきり100cc計ったのもすべて現実逃避の一環です。
包丁の話、笑っちゃいましたけど笑えない話ですね。豪快なお母様……私にはまぶしいです。
Mさん、お疲れ様デス。
その時の気持ちめちゃくちゃわかります。
ご近所なので、明日は我が身と思っていました。
そしてそれほど遠くない昨日、我が家にもヤツがやってきました。
先ほどTBさせていただきました。
また思い出すかもしれませんが。。。(泣)
ウチもアレ以来、怖くて網戸なしでは窓をあけることができません。
ハルさんは外に出たそうなんですけど。
記憶は抹消したいけれど、なにか対策を考えないとだめですかね……。
数週間前、ハルさんブログに出逢い、少しづつ過去の歴史を読ませていただいております。
我が家には13歳になるコーギー、マーブルちゃんがおります。
それとMダックスのデビル君(6ヶ月)とベンガル猫の小袖ちゃん(3ヶ月)も♪
ムカデさんはですね〜。火傷の特効薬になりますよ!
まず、空き瓶(我が家ではジャム瓶)を用意します。
その中に未使用のサラダ油を適当に入れます。半分弱くらいでOK。
それに生きたままのムカデさんを入れます!
入れたらすぐに蓋を閉めることを忘れずに。じゃないと大変なことになります...。
ムカデさんだって必死ですからね。
ムカデさんは油にまみれ、苦しみながら☆になります。
そうですねー。半年位すれば使えるかな?
沈んだ亡骸を眺めつつ、火傷の箇所にムカデ油を塗ります。
かなり臭いです。が、1時間もすれば、火傷したことさえ忘れてします程、痛みがなくなりますよ。
水膨れになるほどの火傷にもバッチリです。
家ではムカデさんが出没する度、油に追加しています。
そうそう、ムカデ捕獲の際には、「ごめんね〜。次は人間に生まれてくるのよ。」と言い聞かせております。
Mさん、是非お試しください。私の職場(食堂)でも大人気です♪