
北軽井沢で遅い昼食を済ませ、私たちが向かったのは、野尻湖の奥にたたずむオーベルジュ「ラ・プーサン」である。
同じ県内とはいえ、やはり信州は広い。
私たちが「ラ・プーサン」に到着したころには、日も暮れかかっていた。
ここ「ラ・プーサン」は犬連れ専用宿というわけではないので、軽井沢で宿泊したジャルディーノやリーブルのように犬用のアメニティ等は備え付けられていない。
あくまで人が主体で、犬も一緒に泊まれるオーベルジュ(宿泊できるレストラン)というスタイルなのだ。

天井が高く広々としたダイニングスペースは、もちろん人しか入れない。
ハルさんには部屋で留守番をしてもらい、私たちは手の込んだ美味しい料理を堪能した。

またしてもワインをぐびぐび飲んでしまう。
この3日間でどれくらいのワインを飲んだのだろう。数えるのが怖い。
それにしても、さすがにオーベルジュだけあって、どの料理も個性があって印象に残るものだった。
お腹も心も満ち足りて、大満足でダイニング・スペースに戻ろうとしたそのとき、壁際に置かれた椅子の上に黄色いクマが腰掛けているのを発見した。
あの、はちみつが大好きで赤い服を着ているクマである。
なるほど!
じっちゃんの名にかけて、このオーベルジュの名前の由来が分かったことを妻Mさんに伝える。
「ほんまやー」
「やろ?不思議な名前やと思っていたけど、このぬいぐるみを見たら一目瞭然やで」
「ご主人がファンなんやろか?」
「いやいや、奥さんが好きなんと違うやろか。ディズニーファンは圧倒的に女性が多い」
「でも、頭に『ラ』がつくだけで惑わされるもんやねー」
「せやなー」
と納得の会話を交わしていたとき、ご主人が近くを通りかかった。
改めて聞くまでもないとも思ったが、念のため(自信満々で)宿の名前の由来を聞いてみる。
「ああ、『ラ・プーサン』とは、フランス語で雛という意味なんですよ」
「へっ? へーっ・・・・・・」
ご主人に優しく解説され、呆然とした面持ちで部屋に帰った飼い主たちであった。
そういえば、宿のエントランスに風見鶏のシンボルマークが飾ってあったような気もする。(冒頭の写真にも写っている)
部屋に戻ると、ハルさんが意気消沈した飼い主達を出迎えてくれた。
お腹をすかせたハルさんに晩ゴハンを与え、しばらく部屋で寛いだ後、ハルさんのトイレも兼ねて夜の散歩へ出かけることにする。
ところが、外は真っ暗闇であった。
街灯はひとつもなく、他のペンションから漏れてくる明かりもない。おまけに月も出ていない。
伸ばした手の先すら見えない真の暗闇がそこには広がっていた。
けれどもハルさんは臆することもなく、外へ出て行こうとする。
一体何にそんな自信を持っているというのだろう。
ひょっとしてアノ役立たずの嗅覚なのだろうか。
一抹の不安を覚えながら、ハルさんの首輪に付けた小さな灯り(ペットブリンガーズのようなもの)だけを頼りに歩いていく。

ふと空を見上げると、そこには満天の星空が輝いていた。
暗闇にいるからこそ、より輝いて見える星の明かり。
ここまで綺麗な星空を見るのは10数年ぶりになるだろうか。
野尻湖畔で見る星たちと、10数年前、南へと向かう船の上で見た星たちが重なって見えてくる。
あの頃・・・・・・。
ゥ、ウーン
ふと感慨にふけり始めた私の隣で、ハルさんはフンチョスを捻り出していた。
首からぶら下げた灯りを瞬かせながら腰を落とし、プルプル体を震わせて頑張っている。
悠久の星空から、地上のフンチョスへ。
私の心は一気に現実へと引き戻された。
まあ、ハルさんのフンチョスのために外出したのだから、文句を言う筋合いのものではないのだけれど、なんだかやり切れない。
おまけに、暗闇だからハルさんが捻り出したブツを見つけるのも一苦労だ。
最新の注意を払って、ハルさんの灯りを首輪から外し、僅かな光を頼りに何とかブツを回収することに成功したのであった。
さて翌日。
この日も快晴であった。
ご主人一押しのジャグジーバス(かなり衝撃的な施設であった)を堪能し、美味しい朝ご飯をいただいてラ・プーサンを出発する。

エントランスでは、ラ・プーサンの看板犬、バイクちゃんが別れの挨拶をしに来てくれた。

和系MIX犬のバイクちゃん、キリッとした美形のわんこである。
四肢もすらりと伸びてハルさんとは大違いだ。
人懐っこいわけではないけれど、私たちが撫でたり、ハルさんが周囲をチョロチョロしていても、決して怒ったりはしない。
凛として動じない様には威厳すら感じるほどであった。
せっかくなのでウチの短足犬も一緒に記念撮影をさせていただく。

オススメポイントをいくつも教えていただき、とても親切にしていただいたご主人と別れ、私たちは宿を出た。
長かったこの旅行も、いよいよこの日が最終日である。
【つづく】
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