
「雨のニオイがする」
妻Mさんが言う。
低い曇がたちこめる空へと鼻先を向け、クンクンとあたりの匂いを嗅ぎまわった後、Mさんは宣言した。
「雨のニオイ・・・?」
「ほら、してるやん。雨のニオイがここらに充満してる」
そう言われても生まれてこのかた、雨の匂いなど感じたことはない。
私にとって、雨の匂いはゴビ砂漠の匂いと同じように未知のものだ。
そうMさんに伝えると、
「夫は鼻利かへんもんなー。ハルちゃんなら嗅ぎとってるかな?」
「いやいやそれはない」
私は反論する。
「
ハルちゃんよりは嗅覚に自信あり!」
胸を張ってハルさんを見下ろすと、ハルさんも「何を言うてはりますのや?」とばかりに私を見上げてきた。

しばらく向き合う一人と一匹。
が、しばらくすると、ハルさんはすいと目を逸らし、地面の匂いを嗅ぎ始めた。
鼻が利かないことを恥じているのか、それとも飼い主の圧力に負けたからなのか、真相は分からない。
けれど、地面をどれほど匂っても雨のニオイなどしないと思のだがどうだろう。
Mさんは「どっちもどっちやなー」と呆れた様子で底辺同士の醜い争いを眺めていた。
まあそれはともかく、我が家で一番鼻の利くMさんが「まもなく雨が降る」と言っているのだ。おそらくそうなのだろう。
私たちは旧軽井沢を離れ、今夜の宿へ向かうことにした。

宿の名は「
カーロ・フォレスタ・ジャルディーノ」。
ご近所の
リン君家が昨年山中湖周辺を旅行された際に宿泊した「カーロ・フォレスタ」というオサレで素敵な宿が軽井沢にもオープンすると飼い主さんよりお聞きしたため、半年ほど前から予約していた宿である。
後に宿のホームページを見てみると、9月もほぼ毎日予約で埋まっていた。早めに予約しておいて大正解である。
そんな大人気の宿カーロ・フォレスタは、さすがにオープンして1年足らずということもあり、建物そのものが綺麗である。
しかも、室内にはセンスあふれる調度品が並び、備え付けのアメニティだって一分の隙もなく統一感が図られている。
犬連れOKの宿とはとても思えない充実っぷりである。
さらには、犬用のトイレからトイレシーツ、コロコロ、消臭剤、果ては犬用の食器と水飲み器まで用意されている。
ここに泊まりさえすれば、犬用の旅支度をしてこなくてもよいのではないかとすら思えるほどだ。
一通り室内を見渡し(Mさんはクンクンとニオイを嗅いでいた)、「ほほーぅ」と感嘆の声を上げたあと、私たちは敷地内に設けられたドッグランへと向かった。

ドッグランにはウッドチップが敷かれていた。
犬の足に負担がかからず、汚れにくいというウッドチップは、ドッグランに最適な素材だと思う。
しかも、ドッグランは大型犬と小型犬の接触を避けられることが出来るように、二つにわけられていた。
さすがは最新の宿だけあって、ここにも配慮が行き届いている。
幸いなことに(ヘクティに恐れをなしたのか?)、雨は降ってこなかった。Mさんも、旧軽井沢で感じた雨のニオイをここでは嗅ぎとれないと言う。
ハルさんはウッドチップのドッグランが大好きなのだろう。
チップを蹴散らして駆け回っていた。

そんなハルさんがほどよくへばってきたころ、他の犬たちが続々とドッグランへと集まってきた。
ハルさんはアフガンハウンドさんにいたく気に入られたようで、熱心なお誘いを受けていたが、いかんせん大型犬にはビビッて腰の引けてしまうハルさんである。

テチテチとウッドチップを踏みしめて逃げ回る。
時折、飼い主の挑発(ダッシュで逃げる)に負けて走り出したハルさんは、案の定アフガンハウンドに狩られていた。

必死の形相で逃げるハルさん。
気のいいアフガンさんが、優雅に、そして紳士的に狩ってくれているのだから、もうちょっと楽しんだらいいのにと思うのだが、肝っ玉の小さい犬である。
そうこうするうちに、ぽつりぽつりと雨が降り出した。
旧軽井沢を覆っていた(に違いない)雨雲がこちらにもやってきたようである。
部屋へと戻り、夕食までの時間をまったりと過ごす。
夕食は一階のダイニングスペースでハルさんと一緒にいただくことができる。
ドッグランで出会った犬たちも勢ぞろい。
賑やかなフルコースディナーが始まった。
ここカーロ・フォレスタでは、夕食の料理を個々にベーシックなものからより高価なものにランクアップさせることができる。
宿泊客は、その日の体調とお財布に合わせてディナーのラインアップを変えて楽しむことができるというわけだ。
個人的に、こういったサービスは非常に面白いと思う。
ここ最近、「いしいしんじのごはん日記」を読んでいたため、魚をお腹いっぱい食べたくてしかたがなかった私は、金目鯛のグリルをオプションで追加することにした。
フルボトルのワインを頼んでオーダーは完了である。

カーロ・フォレスタの料理はどれも手が込んでいて、とても美味しい。
料理の出てくるスピードが少しゆったりめな気がしたけれど、お酒を飲むのにはこれくらいがちょうどいい。

食後のデザートまでペロリと完食し、幸せなディナータイムは幕を閉じた。
一方、ハルさんも素晴らしいディナーを楽しんでいた。

オプションで犬用のゴハンも用意されているのである。
旅行初日で意気あがる私たちは、せっかくだからとハルさん用のディナーも注文することにした。
まずは念入りな写真撮影だ。
ハルさんを「マテ」させて何枚も写真を撮る。

散々待たされた挙句、「ヨシ」の掛け声とともに鶏肉のクリームシチューにがっついたハルさんは、ウサイン・ボルト級の勢いで食事を平らげ、山羊ミルクを飲み干した。

ディナー終了。
あっという間の出来事だった。
滅多に食べることの出来ない豪華な夕食だからこそ、もっとゆっくり味わえばいいのに、なんというか不憫な犬である。

食事を終えた後は、お風呂の時間だ。
お風呂は館内に2箇所用意されているが、男風呂・女風呂ではなく、グループ単位で利用する仕組みになっている。
部屋の外からは、ずっと雨の音が聞こえていた。
ワインをしこたま飲んだ私は、明日の天気を気にする余裕もなく、お風呂からあがるなりぐっすり寝てしまう。
翌日。
雨は上がっていた。
しかし空はまだ予断を許さない色合いをしている。
太陽の姿を探しつつ、ハルさんを連れてダイニングスペースへと向かう。
カーロ・フォレスタの朝ごはんは、意外にも和食だった。

どこの地域でも、犬連れOKの店は洋食の店が多いため、犬連れ旅行では朝昼晩とも洋食を食べる(そして洋食に飽きる)ことだってあるなか、この和朝食は嬉しかった。
こういったところにも、カーロ・フォレスタの配慮が行き届いているのを感じる。
他にも、セルフシャンプーが可能なトリミング室が設けられているうえに、シャンプーも備え付けえてあったりと、犬連れの宿泊施設としては最先端の宿ではないかと思う。
ちなみにMさんは一階のフリースペースのソファの座り心地をベタ褒めしていた。道理で、ハルさんを連れてフリースペースに入り浸っていたわけである。
宿のスタッフの方も、ハルさんのことをとても可愛がってくれた。
ハルさんにとってもよい思い出になったのではないかと思う。
最後に、玄関前で記念撮影をしていただき、私たちはカーロ・フォレスタを後にした。
旅、2日目が始まる。
【つづく】
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ウワサにたがわず(?)、カーロ・フォレスタは素晴らしい宿でした。居心地よく過ごせたハルさんに良かったなの
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3泊4日の旅、ようやく2日目に突入しました。
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