
時折、ハルさんとふたりだけで散歩に出かけることがある。
そんなときは帰ってから夫にいろいろと報告をする。
天気がよくて気持ちよかったよ、とか、子供に遊んでもらったよ、とか、素敵ワンコに出会ったよ、とか、まあ他愛もない話である。
しかし、報告を聞いたあとの夫の第一声はだいたい決まっている。
「……カメラは?」
「……写真は?」と言う場合もあるが、まあそれはたいした問題ではない。
先日、それで夫と少し言い合いになる。
「カメラカメラってね、重いのよアレは」
「でもせっかくのシャッターチャンスを」
「夫がアレを買うにあたって」
「はぁ」
「ワタクシ言いましたよね。ワタクシは決してアレを持たないと」
「言ったけど」
「けど何」
「妻がカメラを持っていれば、今頃はレオ様の写真もラブ様(←格上げ)の写真も撮れてたと」
「まぁね」
「今日だって緑の芝生にコギ色が映えてキレイだったんでしょ?」
「……まぁね」
「その美しい瞬間は二度と戻らない」
「……ま、まぁね」
「だからさ」
「でも重いのよアレは」

と、議論が振り出しに戻ったところで譲歩の意思を見せる夫。
「わかった」
「わかっていただけましたか」
「重いのは辛いよな」
「ええ」
「じゃあ単焦点レンズにしなよ」
「え」
「望遠とつけかえといてあげる」
ちなみに単焦点レンズとは、やっぱりデジイチにつけるレンズである。
普段夫がハルさん撮影用に使っている望遠可能レンズの半分程度の長さなので、相対的には軽いといえる。
しかし所詮デジイチはデジイチ、重いことに変わりはない。

「夫……」
「……ハイ?」
「それ、譲ったつもり?」
「わりと」
「今、展開としては
『コンパクトデジカメでいいから持って行きなよ』
みたいな流れやったで?」
「ソレは……譲られへん」
とヘンなところでヘンな男気を見せる夫にほだされ、
結局、次の散歩には単焦点レンズ付きのデジイチを持っていく。

しかしそんなモノを持って散歩に出たことがなく、どこで何をどう撮ればよいのかさっぱりわからない。
とりあえず桜が咲いているので、桜の写真でも撮ろうとカメラを構えてウロウロしていると
「ギャヒーン」
というハルさんの悲鳴が聞こえた。
ポジション調整に必死になるあまり、ハルさんの足を踏んづけてしまったのだ。
それはボブ(仮名)に噛まれて以来聞いたことのない悲痛な叫び声であった。
慌ててカメラを放り出し、ハルさんと抱きあう。
足は大丈夫そうだったが、ハルさんも自分が思いのほか大きな声を出してしまったことに慄いていた。
ごめんよごめんよと擦り寄ってくる姿がいじらしい。
それもこれもこの重い物体のせいかと思うと腹立たしいが、
出てきてしまったものは仕方がないのでそのまま散歩は続行する。
桜の下を通り、

オション場でオションをする。

緑の芝(草?)でくつろいだり、

妙な摺り足で、果敢に斜面に挑んだり。

マンションまで戻ってくると、しばらく道端で風に吹かれる。

とりあえずひととおり撮影してはみたものの、なんともいえない結果に終わった。
休日の私とハルさんの散歩は、でもまあ、だいたいこんな感じだ。
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