一般のペットホテルよりは少々お高いが、かかりつけの先生がすぐ傍にいてくれるという安心感は大きい。
しかし、やはりそこは病院であってホテルではないので、基本はケージの中、ときどき裏の庭に少し出してもらう、という生活パターンになる。
行動範囲も運動量も普段より少なくなってしまうのは避けられない。
それでも昔は病院の看板犬、バセットハウンドのアニーと遊んで鬱憤を晴らしていたようだが、そのアニーも今ではハルさんのほぼ2倍の大きさになり、あまり遊べなくなってしまった(←病院スタッフさん談)。

そんなとき、知り合いの方からTDSPという施設を教えていただく。
TDSPはペットホテル・トリミング・しつけ教室・ドッグカフェなどを備えた犬の総合施設である。
なにより特徴的なのは、そこで基本的に他の犬と一緒に過ごす、ということだ。
だから預かってもらっている間も、他のワンコと一緒にドッグランで走り回ったりすることができるのである。
飼い主のいない不安な時間を静かに過ごしたいタイプのワンコもいるので、向き不向きがあるだろうが、ドッグランではそれなりの異名(自称)を持っていたハルさんには向いている場所のように思えた。

近々ハルさんにお泊りしてもらう予定もあるし、春になればまたあの恐ろしい抜け毛祭りが始まって家でシャンプーができなくなるし、今のうちにTDSPを利用してみることにしたのである。
ところでTDSPでは、会員になるまえに「お試しお預かり」という試練(?)がある。
集団で過ごすことが基本となるので、攻撃性や、ストレスで参ってしまう危険性がないか事前に確認するのだ。これをクリアしないと会員にはなれない。なかなかしっかりした施設なのである。
ちなみにハルさんは、気は強いが積極的に攻めるタイプではない。
攻撃性という意味ではまあ大丈夫だと思う。
問題はストレスの方であった。
実はハルさん、飼い主に負けず劣らず、結構な分離不安なのである。
「飼い主が立ち去る」という行為にとても弱いのだ。

ドッグランでも飼い主の片方がトイレにでも行こうものなら途端にシオシオとテンションが下がる。そうなるといくら他の犬が遊びに誘ってくれてもランの隅でテコでも動かない。
さっきまでゴキゲンに遊んでいたワンコにさえ、しつこく誘われるとシーッと猫のように怒り出す(←吠えると叱られるため)。
2人とも立ち去るとさらにダメで、ヒュンヒュン鳴いて動かなくなり、もうタイヘンなのだそうだ(←実家の母親談)。
幼い頃から飼い主の絶対性を骨の髄まで染み込ませてきたことが、仇になっていた。
飼い主が絶対であることと飼い主がいなくても強くあること、この2つはどうしたって矛盾している。
絶対君主がいなくなれば不安を感じるのは、当然のことなのである。しかし飼い主のいないところでふんぞりかえるような犬にはなって欲しくない。
それはどうにもならないジレンマであった。

しかしまぁ何事も慣れというものがある。
最初はダメでも徐々にその環境に慣れてくれれば良いのだ。
そのためにも、とにかく「お試しお預かり」をクリアしなくてはならない。
だから、テンションはだだ下がりだろうが、愛想も悪かろうが、とにかく他のワンコと揉めず、体調も崩さなければ御の字だと、飼い主夫婦は思っていた。
とはいえ飼い主のいないところでハルさんが知らないワンコと一緒に過ごすなど今まで経験がない。
大丈夫だろうと思いつつも、不安は抑えきれなかったのである。

さて当日。
まるでハルさんの先行きを暗示するかのように、空には暗い雲が立ち込め、夫は二日酔いであった(←え)。
それでも試練には立ち向かわなくてはならない。
車を飛ばしてTDSPに向かう。片道1時間弱の道のりである。
到着する頃には雪がちらほら舞い始める。指先は凍りそうに冷たい。おまけになぜか建物が薄暗い。
TDSPは、停電していた(シェー)。
この不穏な空気を察知したのかハルさんは建物の中へ入ろうとしない。
スタートからもうだいぶん不吉な感じであった。

つづく。
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書いているうちにあまりに長くなったので、次回へ続きます。
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