素敵な響きである。
色とりどりのハーブに囲まれた中を華麗に走り抜けるハルさんの姿が思い浮かんだのも無理からぬことであろう。
ハーブたちに見つめられながら、他の犬に狩られるハルさんの姿というのも見てみたい気がする。

そんな期待感に満ちて、私たちはナビの指し示す方向に車を向かわせた。
けれど、目的地近辺に到着したとナビが言い張っているものの、辺りにはドッグランのドの字も見えない。
犬の鳴き声や、足音さえも聞こえない。
場所を間違えたのではないかと思い、引き返そうと踵を返した時、道路を隔てて反対側に長らく人の手が入っていない様子の空き地があった。
よく見ると、周囲は柵で囲まれている。
「もしかして、あそことちゃうか」
「ウソ!?あれは廃墟やで。廃墟」
「まあ、ここまで来たからにはちょっと確かめてみよか」
辺りがシンと静まる中、私たちは恐る恐る近づいていった。
まるで心霊スポットを見学しにきたように。
「草ボーボーやな。やっぱりただの空き地やで、これは」
「そやね・・・・・・。あれっ!?あそこに看板がある!!」
果たして、妻Mが指し示す方向には
ハーブガーデンドッグラン
の文字が刻まれた木の看板が垂れ下がっていた。
その下には「無料」の文字も見える。
「ここやったんか・・・・・・。確か雑誌には1日500円と書いてあったはずやけど」
「無料開放・・・というより、無料で放置することにしたみたい」
「せやけど、開いてるようには見えへんで」
「確かに。一応、開くかどうかだけ試してみよっか」
ところが。
残念ながら、ハーブガーデンの扉は意に反して開いてしまった。
こうなれば、中に入るしかない。
まるでお化け屋敷に乗り込むような心持ちで、二人と一匹は(自称)ハーブガーデンの内部へと潜入した。

そこは、犬を模した大きな石造りのモニュメントを中心として広がる、空き地であった。
空き地の周囲には雑草と思しき植物が生えていた。
あるいは、これらの植物は(元)ハーブたちであったのかもしれない。
けれど、ハーブに疎い飼い主に、雑草とハーブの区別などつきようがなかった。
ハルさんはしきりに草木の匂いを嗅いでいたけれど、ハルさんの嗅覚では雑草とハーブの違いなど分かるわけもない。

飼い主は呆然と立ち尽くしていた。
ある程度匂いを嗅ぎつくした(そして何も分からなかったであろう)ハルさんも、何もすることがない様子であった。
もちろん、他の犬がやってくる気配など微塵も感じられなかった。

事態を打開するには、飼い主が一肌脱ぐしかない。

ハルさんがよそ見をしている間に、私は走り出した。
悲壮な覚悟を背負いながら、犬のモニュメントの周りをグルグル駆ける。

ハルさんの表情を垣間見る余裕などなく、一心不乱に走り続けた。

やがて、なけなしの体力が底をつき、ハルさんに追いつかれた時には、息が完全にあがっており、体中から汗が噴き出していた。

疲労困憊になりながら、ハーブガーデン(え?)ドッグランをあとにする。
隣接したプールを覗いてみると、そこもなかなかいい色合いに染まっていた。
キノコふうのオブジェとのコントラストなんか最高である。

あるいは、単にシーズンオフのせいでさびれているだけなのかもしれないが、旅行者の私たちにはよく分からない。
盛大に運動したおかげでお腹がすいた私たちは、旅先で最後の昼食を摂ることにする。
ハーブガーデン(ふう)ドッグランにほど近い場所に、犬連れOKの店を見つけたので、早速入ってみる。
けれど、平日にもかかわらず、満席だった。
ハルさんとともに、ベンチに座り順番を待つ。

よっぽど人気のある店のようで、私たちが待っている間にも続々とお客さんがやってきた。
ちなみに、このお店の名前は「Epi」という。

屋根つきのテラスの下、犬連れでも釜で焼きたてのピザが味わえるとあって、犬連れ客の割合が非常に高い。

さすが人気店、ピザはボリュームもあって、味も抜群である。
さらに、ワンコ用ピザというメニューがあったので、ハルさんのために注文してみた。
けれど、やっぱり人気があるのか、ワンコ用のピザ生地がもうなくなったと言われてしまう。
まあ、それならしょうがないかと諦めていたところに、余っていた生地で小さめのピザを焼いたので、こちらをサービスしますと、なんと無料で持ってきていただいた。

驚くほど細やかなサービスに人気ぶりの一端を垣間見たような気がする。
早速、ハルさん用ピザを試食してみると、さすがに味は薄めだが、人間が食べても問題なく美味しい。
ハルさん(ごとき)に与えるのが惜しいくらいだ。

ちょうど、隣にトイプーを連れて旅行に来ていたご夫婦と犬の話や旅の話をしていたところだったので、ハルさんとトイプーのベガちゃん(写真を撮り忘れた・・・・・・)にワンコ用ピザをあげてみる。
普段、フード以外の物を滅多に与えないというキュートなベガちゃんは、かなりの時間を費やしてピザを食べきっていたが、ハルさんは例のごとく丸呑みだった。(恥ずかしい)
その後、お返し(?)にベガちゃんの飼い主さんから季節野菜のオーブン焼きを分けていただく。

(まるで自分たちが注文したように写真を撮る)
こちらも、野菜の旨みが十分に感じられ、非常に美味しい。
こうして、海老で鯛を釣った私たち(←恥を知れ)は、ベガちゃんの飼い主さんに別れを告げ、帰路へついた。
西へ西へと走る。

途中、何度かサービスエリアで休憩し、

家に辿り着いたときには、夜もとっぷりと暮れていた。
こうして、今年の旅は終わった。
カップ酒を巡る旅が。

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長々と続いた旅の話も、これでようやく終わりました。
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