荷物は持ってくれるし、背中に乗せてくれるし、遭難したら見つけてくれるし、首につけた樽からはいつでも美味しいぶどう酒が飲める。

刷り込まれたのはまあご想像の通りアルムの山小屋だが、そういったわけで昔から「おやっさん」という名のセント・バーナードを飼うのが夢であった。
刷り込み場所がスイス・アルプスなのに、小さい頃から心に決めた名前は純和風(←和風とかでもないか?)なのであった。
今でもドッグランなんかでセント・バーナードを見かけるとつい
「おやっさん!おつかれっス!!」
と声をかけてしまう私である。
実は今のマンションを購入するにあたっても、
不動産会社の川口さん(仮名)とこんな会話を繰り広げていたりする。
「このマンション、犬飼えるんですよね?」
「はい」
「どんな犬でもいいんです?
……たとえばセント・バーナードとか」

横にいる夫がギョッとしている。ちょっと、初耳ですけど!?という目線が肩口あたりに突き刺さる。
一方、川口さん(仮名)はまったく動じる様子もなく、こういった。
「えぇ、結構ですよ〜。持てるならね」
そうなのだ。ウチのマンションは確かにペットOKだが、原則としてエントランスを出るまでは、ケージに入れるか抱きかかえなくてはならないのである。
おそらく当時、川口さん(仮名)はこういう質問をよく受けていたのだろう。
彼の素敵な笑顔の裏には、そこはかとなく挑戦的な気配を感じた。
ちなみにセント・バーナードの標準体重はおよそ70キロ。
70キロといえば、近頃ワタクシ大注目の女芸人、柳原可奈子と同じである(←どうでもいい情報)。
毎日散歩のために柳原可奈子を抱えてマンションを昇り下りするのは、どう考えても無理がある。

家に戻ってから夫と再び話しあう。
「妻はセント・バーナード飼いたいん?」
「……まぁ、ちょっと」
「なんで」
「なんでって……かわいいやん?」
「まぁかわいいはかわいいかもしれんけど」
「大きい犬ってな、抱きしめると幸せな気持ちになるんやで!(予想では)」
「へぇ、そうなん?」
「それに!首のタルからいつでも美味しいぶどう酒が」
「ココは宝塚やで。妻、どこで遭難する気や」
「ウッ……」
「とにかく、大きい犬はムリやって」
「うんまぁそうやな。川口さん(仮名)もああ言うてはったし」
「でもな、仮にこのマンションでイケたとしてもムリやで」
「え?なんで?」
「オレが勝たれへんから」
「……え?」
「本気出して勝てへん犬は、飼われへん」
「……あの……ちょっと質問よろしいですか?」
「どうぞ」
「何ゆえ自分の飼い犬と本気で戦う必要があるのかしら……?」
「そんなんわからへんやんか!でも、そういうココ一番の勝負は勝たなあかんやろ?」
「……そういうもん?」
「そういうもん」
この後も夫が色々な犬種を吟味している様子を見る限り、夫の勝てる/勝てないのボーダーラインは、どうも四国犬と紀州犬の間あたりにあるらしかった。(←秋田犬はもうダメらしい)
犬種図鑑を見て考え込んでいる時間の三割くらいは「オレ、勝てるのか?」と悩んでいたようである。
そんなわけで、夫が本気を出せば勝てる犬として、ウェルシュ・コーギーのハルさんが我が家へやって来たのであった。

****************************************
ハルさんが大きな犬を苦手なのは飼い主の妙なスピリットが影響しているのかもしれません。
少なくともハルさんだけは大きな犬でも真正面から受け止めれるように、クリックお願いします。

そして、小さな犬には優しく接することができるよう、こちらにもクリックお願いします。
