先日私が、誰にともなく(←とはいっても夫とハルさんしかいないが)呟いたひとことがめぐりめぐって、気がつくとヨドバシカメラでテレビを買うことになっていた。
夫にいわせると
模様替え
→ソファの位置を移動
→テレビがブラウン管では向きが合わない
→3月は決算期
→そろそろプラズマ?
という流れで、私がテレビを欲しがったことになるらしい。
そのテレビも無事やってきて既に数日が経過しているが、どうも未だに騙された感が抜けない今日この頃である。

そんなわけで先週の祝日、今より大きなモヤっとボールを抱えつつも、夫とテレビボードを買いに行こうと話していた。
当然ながら、ハルさんは留守番である。
せっかくの休日に留守番を強いられるハルさんのため、共働き夫婦は朝から張り切って遊んでいた。

うろうろと動き回るサッカーボール(紐付き)にがっつり食いつくハルさん。
それを松方弘樹ばりにドッセーイと釣り上げるのが、最近の遊びのトレンドである。
しかしこの日はヒットの瞬間、ハルさんの口からピーンと白い何かが飛んだ。
拾い上げてみると、それは歯のカケラであった。
ハテ。乳歯は欠けてから生え変わるんだっけ?
ハルさんの歯のカケラを見た私はまっさきにこう考えた。
2歳にもなって乳歯が残っているはずもなかろうし、欠けて歯が生え変わる生き物は、おそらく犬ではない。
私は辛いことや悲しいことがあるとすぐに現実逃避を起こす。
寒い場所でおなかが空くと、すぐに眠くなる。
いつかどこかの雪山で笑顔で凍死するんじゃないかと、今から夫に心配されている。
ハルさんの犬としての能力不足を、実はあまり責められないのである。

しかしいつまでも逃避していてもはじまらない。ハルさんをつかまえて口の中をこじ開ける。
はたして右奥歯がえぐれるように欠けていた。歯茎からも少し出血しているようだ。
以前にも同じ遊びで多少出血したことはあったが、歯が欠けたのは当然ながら初めてである。
そのうえ、口をこじ開けたときの歯茎は真っ白だった。
このような血の通わない歯茎も見たことがなかった。
あわてた私たちはハルさんを車に乗せ、病院へ連れて行った。
「ハルちゃん……たいへんな病気やったらどうしよう」
「ハルちゃんいなくなったら、ウチ、もういろいろムリや」
「ハルちゃん……うぅぅ」
車に乗った途端、ブツブツと呟きはじめる妻。
先ほどまでトンチンカンな方向へ逃避していたくせに、いざ問題と向かいあうとどこまでもネガティブ坂を下っていく。扱いづらいタイプである。
ところで実際に診察を受けてみると
「大丈夫ですよ。
欠けてしまった歯はどうにもなりませんが、
まぁ表面のエナメル質の部分だけですし、
このまま様子を見ましょう。
歯茎の色も欠けた直後だから
血の流れが悪くなっていたのではないでしょうか」
ということだった。
たしかに今見たら、既に歯茎は綺麗なピンク色に戻っている。
歯が欠けるというのは、犬、とくに大型犬にとってはよくあることらしい。
なにか堅いものをかじって欠けてしまう場合もあるし、
フリスビーに熱心に取り組んで、犬歯が削れてしまう場合もあるという。
ヒヅメなんかで欠けてしまうこともあるらしく、
今後はあまり堅すぎるものは与えない方がいいだろうといわれた。

大事に至らなくてほんとうによかったけれども、歯によかれと堅いもの(ヒヅメ等)を日頃からビシバシ与え、松方弘樹的エキサイトの末、愛犬の歯を欠けさせてしまったことで、なんとなくションボリしてしまう。
そんな共働き夫婦を励ますように先生はいう。
「大丈夫ですよ!僕も欠けたことありますし」
「……?」
頭から?マークを出しながら動きを止める妻。
「……それは……アニー(←病院で飼われているバセットハウンド)のことですか?」
頭から?マークを出しながらも果敢に挑む夫。
「いいえ僕です。
昔、ちょっと奥歯が欠けたことがあってですね、
歯医者にいったら『ほっとけ』っていわれたんですよ!
そんなもんですよアハハ!」
「……ヒヅメとか、かじったんですか?」
まだ話の流れにうまく乗れない妻。
「いえいえ!僕、昔ラグビーしてたんです。それで」
「へぇー……」
「へぇー……」
「歯って多少は再生するみたいだし、
僕、今も全然大丈夫ですよ!
だからハルちゃんも大丈夫!」
「はぁ……」
「どうも……」
いろいろあったが、最後は豆鉄砲を食らった鳩のような気持ちで病院を出る。
車に乗ってどちらともなく曖昧な笑みを浮かべる。
「ま、まぁ大丈夫でよかったよな」
「そ、そうやんね、歯の成分なんて人も犬も同じやもんね」
「まぁ……そうかな……そうかも……ところでこれからどうする?」
「んー、せっかくハルちゃん車乗ったしなぁ」
「ちょっとドッグランでもいくか!」
「そやな!」
そんなわけで、なんとなくドッグランへ出かけた私たちを、たくさんの素敵な出会いが待っていたのである。

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