トイプーを見つけるとしつこくつきまとってしまう習性があるので、ドッグランでトイプーを見かけると、またハルさんが突撃するのではないかと飼い主に緊張が走る。
今までの経験上、コーギーと一緒に遊んでやろうなんてトイプーは非常に稀であるうえ、追いかけられると本当に怖がって逃げ惑うケースが多い。
せめてもの救いは、トイプーの運動能力がコーギーより高いので、まず確実に逃げ切れる点であろうか。
話は過去に遡るが、ヅカがペンギン族の襲来を受けた日のこと。
この日、ヅカにはペンギン以外にも、生後5ヶ月程のトイプーがやってきていた。
コロコロと丸まった体に加え、足先は池に入ったせいで濡れそぼっており、まるで迷える子羊のような愛くるしさである。
このとき、ハルさんは池の中でペンギン族との戦いに明け暮れていたわけだが、トイプー好きのハルさんのこと、この可憐なトイプーの存在に気がつくのも時間の問題である。
今日がドッグランデビューだという可愛いトイプーがハルさんの毒牙にかかってしまうなんて、コギの飼い主としてお天道様に顔向けができないではないか。
そう決意した飼い主夫婦はトイプーちゃんを撫でくりながら戒厳令を引くことにした。
ハルさんが近づくなり、
「フセ!」
の一喝である。
このコマンド、犬に対するしつけとしては基本中の基本であるが、ことハルさんに対しては、まるでアロンアルファのような効き目を発する。
ハルさんがコーフンして他の犬を追いかけているときでも、「フセ」の一言でハルさんはその場に伏せる。
何故にこのような絶大な効力があるのか、実は飼い主もよく分かっていないのだけれど。
だが、これだけでは心もとなく感じた飼い主はさらに、
「マテ!」
のコマンドも追加発令した。
こうして、超
「フセ」に「マテ」が加わるなんて、ハルさんにとってはまるで馬場と猪木がタッグを組んで襲い掛かってきたようなものである(←古い)。
もう、盆と正月が一遍に来たような感じである(←だいぶ違う)。
幼き頃から共働き夫婦にスパルタ教育を叩き込まれたハルさんのこと。
もう、こうなっては一歩も動けない。
目の前に大好きなトイプーが来ていたとしても・・・
この通り、動けない。
だが、彫像のように動かないハルさんに気をよくしたのか、トイプーちゃんは、さらに距離を詰める。
嗚呼、大好きなトイプー、しかも愛くるしい仔犬がこんな至近距離に来ているのに、ハルさんは動けないままである。だが、ここでコマンドを解除してはトイプーちゃんの身の安全は図れない。引き続き厳戒態勢は続くのである。
さらにテンションを上げてきたトイプーちゃん、一瞬のフセの後、
ハルさんに飛びつく。
おお、今までトイプーちゃんがハルさんと遊ぼうとする仕草を見せたことがあったろうか?
いや、ない。(←即答)
ハルさんもきっと遊びたくてジリジリしているだろうが、コマンドは最後まで完結してナンボのものである。
ここで気を緩めてはいけない。
そうこうするうちに、全く動かないハルさんに興味を亡くしたトイプーちゃん、その場を離れる。
ハルさんもようやくコマンドから解放されて、ご褒美にありつけるのではないかと期待感に身を震わせたそのとき、
ハルさんの前を通りかかったトイプーちゃんのリードが顔面に引っかかる。
こうして、トイプーに近づくとロクなことがない、ということを多少なりとも学習したハルさんなのであった。
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ハルさんも、このような(辛い)経験を経て、最近では自分より小さな犬に無闇に突撃することが減ってきたような気がします。
盲目的に飼い主のコマンドを完遂した生真面目なハルさんにどうか慰めのテチを。
