我々がハルさんと出会ったのは、忘れもしない、一年前の4月のことであった。
ペット可のマンションに越したことだし、そろそろ犬を、それもコーギーを飼おうとしていた私は、ネットでコーギーのブリーダーをチェックしていた。
結果、金沢のブリーダーさんのコギがとても可愛かったので、旅行ついでに見学に行くことにしたのである。
この時Mは、「ソファや壁をかじられたらどうしよう」と不安がっており、あまり乗り気ではなかった。
私にもMの気持ちは十分理解できたので、とりあえず、ブリーダーさん宅を訪問する、という人生初めての経験ができればいいなあという程度の軽い気持ちで金沢へ向かったのである。
そこのお宅で出会ったのがハルさん、というわけだが、他にもちびコギ達がいた中で、実はハルさん、我々夫婦の仲で
第一候補ではなかったのである。
その時の様子はMが日記を書いていたので、引用する(←手抜きともいう)。
*****2005年4月某日
金沢へ行く。
コギ(ウェルシュ・コーギー)に会うためだ。
なぜ金沢なのか。
例によって一極集中の人生を送っている夫がコギに集中した結果、はじき出したのが金沢だったのだ。
金沢のとあるブリーダーさんが育てているコギが、とにかく別嬪揃いなのだそうだ。
コギであれば、というか犬であればわりとなんでも愛せる私だが、どうせ飼うなら別嬪に越したことはないと思う。
しかし、実はこのとき、本当にコギを飼う気はあまりなかった。
夫はすでに、コギを飼うことを現実的に考えていたようだが、私はまだ、コギのもたらす生活の変化を受け入れられずにいた。
だから今回の旅行は、金沢観光のついでにコギにも会えたらいいかも、という軽い気持ちだった。
私は、瞬発力に乏しく、たいそう保守的で、変化が苦手である。
夫がいなければ、ハムスターを飼うことも、マンションを買うことも、たぶんなかった。
夫がいなければ、私の人生はずいぶんと平べったいものになっていたと思う。
しかし、そんなことをいいながらも、生のコギを見たら色々ダメかもしれないな、とは思っていた。
そんなわけで金沢に到着。昼前に家を出て3時半くらいに着いた。
例によってコーフンした夫が無駄に早起きしたことも一応書いておく。
ブリーダーさんはごく普通の民家に暮らしていた。しかし―――
入り口にコギ3匹。
玄関にコギ2匹。
キッチンにコギ2匹。
キッチンの窓から外を眺めると運動場らしき場所にコギ4匹。
人生においてこれほどの数のコギを見たことはなかった。
普通に暮らしていたら、たぶん一生見ることはないだろう。
でももう見てしまった。目と脳に焼きついてしまった。
たった一匹のコギを発見しただけでも後をつけてしまうのに。ストーカーなのに。
そこへさらに追い討ちがかかる。
キッチン奥からじっとこちらを見つめるコギ(仔犬)4匹。
そしてキッチンの扉の向こうから、さらにコギ(仔犬)2匹が出現。
もームリ。絶対ムリ。なんだかわからないけどとにかくムリ。よそ様の家なので表面上は平静を装っていたけれど、おとなしく地味な仔犬であったハルさん(生後2ヶ月)を抱っこしながら、既にこのとき私のなかで何かが2、3本切れていたように思う。
さらに私と同じ誕生日(生後1ヶ月)の仔犬がよちよちと近寄ってきて、私の差し出した手のひらに
「添え」と顔を乗せたとき、さらに根幹の太いモノが2、3本ぶっちりイってしまった。
それでも、
「もしゴールデンウィークに頂けるとしたらこちらの2月2日生まれのコ(←この仔犬がハルさんである)でないとダメですね」
(↑生後2ヶ月の「添え」ちゃんでは、まだ1日に何回もごはんを食べなくてはいけない。
共働きの私たちには世話が難しいのである)
「わかりました。では少し考えさせて下さい。後ほどお電話させていただきます」
と冷静な返事ができたのは、とにもかくにも30年という長い時間を生きてきた賜物だろう。
しかし、結局その日のうちに
「頂きますよ!えぇ頂きますとも!!2日生まれのスレンダー小雪系別嬪さんをな!!」というようなことを大人口調でブリーダーに伝えてしまう。
そんなわけで、我が家に仔犬がやってくることになった。
*****
予約をしてから家に来るまでの間に撮影されたハルさん
こうして、2005年のゴールデンウィークにハルさんを迎えに行くことになるのだが、あの「添え」ちゃんがもう一月早く生まれていたら・・・・・・、ハルさんは別のウチに貰われていたかもしれない。
それくらい、「添え」ちゃんは可愛く、そして人懐っこかった。
いっぽう、ハルさんはどちらかというと、地味な仔犬であった。
Mがハルさんを抱いていた間、私はずっと「添え」ちゃんと遊んでいたくらいだ。
しかし、出会った当時、生後2ヶ月にしては、ハルさんは非常に落ち着いていた。
一方の「添え」ちゃんはまだ生後1ヶ月、これから性格が変わっていく可能性もある。
集合住宅で飼うなら、落ち着きのあるコギさんの方が飼い易いだろうと、その時に下した判断は、今から振り返っても間違っていなかった気がする。
ドッグランではこんなんだけれど。
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出会ったときは、大人しく抱っこされていたのに、今では、自立心が芽生えたのか、抱っこされるのを嫌がるようになってしまいました。
たまには抱っこされてあげてよ、とハルさんに説得のテチをお願いします。